THE LIBRARY

展示作品紹介(2)

後藤元洋/小林雅子/さいとううらら/坂本東子/佐々木環/佐藤由美子/菅野まり子/瀬島匠/タカユキオバナ/田口賢治/田通営一/谷本光隆/洞野志保/戸野倉あゆみ/中川るな

 

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後藤 元洋 
昇曲導付無心変化脱力鳴門紅輝/24×29×8cm/写真プリント、アクリル板
 透明アクリル製ケースの蓋の表裏に、男性の上半身(セルフ・ポートレート)をそれぞれ背後と正面から撮ったモノクロ写真と、「なると」のカラー写真とを組み合わせたものが貼られ、内部には同様のポートレート写真7枚が、「なると」の写真と共に収められている。さらにケースには、多数の「なると」を入れた袋と、それらを写真に貼るための接着剤、ピンセットが添えられ、この作品が写真に「なると」を貼って「福笑い」のように楽しむためのセットであることに気付かされる。

1958年生まれ。「ちくわ」をくわえて風景の中に立つ自身の姿をとらえたセルフ・ヌード写真をはじめ、シュールかつリアルな光景を、写真のほかオブジェやインスタレーションの手法も駆使して表現。
小林 雅子 
ラプンツェル/31.5×22×12cm/紙、布、粘土、ナイロン
 やわらかな触感の紙でできた本に、塔に閉じ込められた王女が自らの長い髪を地面に垂らして脱出をはかる童話「ラプンツェル」の文章が印字されている。ページの下には、王女が塔から日々眺めていたであろう下々の街の景色がミニチュアで再現され、一部が切り抜かれた右ページの上端に建つ粘土の小さな「塔」からは、物語をなぞるように、編み込んだブラウンの長い髪が本のしおり紐の役目を果たしながら垂れ下がっている。作者が子供の頃に好んで読んだであろう「ラプンツェル」の物語がオブジェとして表されたこの作品は、埋もれていた彼女自身の記憶の断片を掘り起こし、そこにかたちを与えたものとしてとらえられる。

1971年生まれ。部屋や人形など、過去の思い出が鉄を素材にかたちとなったものや、油紙でぬいぐるみや自身の服をかたどったものなど、さまざまな素材や形態による立体作品を発表。
さいとううらら 
DICTIONARY/20×27×10cm/蜜蝋、空気、水
 日本最古の国語辞典である「大言海」を型取りし、書名やマーク、ラインのエンボスなども含めて、蜜蝋を素材にリアルに成形した作品である。素材である蜜蝋のしっとりとした触感が伝わってくるこの「本」の内部は、水が流れる複雑な構造になっており、これを前後左右に傾けると、封入された水と空気が混ざりつつ移動する際の「コポッコポッ」という小さな音が聴こえる。膨大な量のことばを収録する実物の「大言海」は、二次元上のことばの「海」にもたとえられるが、ことばに代わって水を封じ込めたこの作品では、「知の容器」ともいえる「辞書」の外殻のみをかたちとすることで、特異な書物としての「辞書」のイメージが表されている。

1969年生まれ。円形やリングの無限の連鎖を表すようなかたちを主なモチーフとした平面、版画作品のほか、自製の石鹸などといった繊細な素材を使用した透明感のある立体、インスタレーション作品を発表。
坂本 東子 
read between the lines/30×22×6cm/モノフィラメント、アクリル板(台座)
 きわめて細いテグスを手で編み込んで直径数ミリの円環を無数に増殖させ、8ページ分の「本」のかたちに成形したものが、ページを開いた状態でアクリル板の台座に乗せられている。ここでは、本の輪郭にあたる部分には透明のテグスが、文字の部分では不透明に染められたテグスが用いられているが、これらはページが重なって「本」の厚みが増すごとに、視覚の中で混ざり合ってより複雑なイメージをつくり出す。またここでは、会場の照明の光を受けて現れるテグスの輝きや、内部を透過してできる影も重要な要素になっており、それは作品を周囲の空間と融合させ、新たなイメージを生み出す源になっている。

1972年生まれ。単繊維であるテグスを編む行為の中で自身の手の軌跡がつくり出す「あいだ(空気)」を表現の核とし、編まれた球体などのかたちがさまざまなイメージを発する作品のほか、日記をモチーフにした刺繍作品も制作。
佐々木 環 
凝結/凝縮 /  22×22×21cm/和紙、雁皮、布、木材にリトグラフ、スクリーンプリント、ドゥローイング
 5段重ねの引き出し状の箱の表面に、黒い線が複雑に絡み合う有機的なかたちが孔版で刷られ、引き出しも同様のかたちで覆われている。これらは「くらげ」のイメージをもとに抽象化したものだが、それぞれには、雁皮紙にリトグラフで「くらげ」を刷ったものや、「紙幣」あるいは「貨幣」のかたちを同様のイメージで模したものが収められ、下の段にゆくほどその中身の物量もかたちの複雑さも増し、作者独自のイメージが濃厚に表されている。

1981年生まれ。墨一色による細かな線が複雑に絡み合うことで「クラゲ」のかたちなどを表したものなど、抽象と具象の境界線上にあるような平面作品を主に版の技法によって制作。
佐藤 由美子 
十葉扁舟(じゅうようへんしゅう)/30×24×12cm/和紙にリトグラフ、ボール紙
 大小10の層が入れ子状に重なってできた、舟形もしくは蓮の実を思わせる立体作品である。墨色のイメージをリトグラフで刷った和紙による各層は、宗教的な教えを説いた10編の漢詩からなる「十牛図(じゅうぎゅうず)」の一つ一つが、きわめて繊細な文字で刷り込まれている。ここでは、一つの層の裏側とそこに接する真下の層の表側は、まったく同じイメージが裏刷りで刷られた関係にあるが(10層すべてを真上から見たものと最下層の裏側も裏刷りの関係にある)、実はすべてのイメージが一つの版のみで刷られたこの作品は、あらゆる部分が結局は一つにつながるであろう「宇宙」そのもののかたちを、暗に象徴しているようにも思われる。

1972年生まれ。文学作品や仏典なども引用しつつ、墨で描いたように見えるイメ−ジと活字のようなテキストが折り重なるモノトーンのリトグラフ作品や、それらをもとにしたブック・オブジェを制作。
菅野 まり子 
mutus liber "Spectacle"/16.7×16.7×2cm/厚紙、アクリル絵具、インク、コットン、紙
 厚紙にコットンを張ったケースに、3枚のボードをつなげて折り畳んだ作品が収められ、内2枚を互いに垂直に立てることで、一つの「部屋」のような空間が現れる。赤い背景の面には、剣を持つ人と討たれて倒れる人が白い線で、薄茶色の面には中世を思わせる建物が赤の線で描かれている。ここでは、見知らぬ時代や場所の街並と、そこで行われたであろう「決闘」シーンが同居しつつ一つの場がつくられるが、それは、仮想の時間と空間を二次元上で混ぜ合わせながら、ある物語を一つの空間として立ち上がらせ、あたかも「舞台」のような要素を感じ取らせるのだ。

1967年生まれ。人の意識の内面に潜む感情を表現の核に据え、そこから生まれるイメージが現実の場に現れる際に構築される空間を、時には「劇場的」な要素も含んで絵画もしくは「本」のかたちで表現。
瀬島 匠 
りんくんの物語/32×26×10.5cm/合板、紙、プラスチック、アクリル板、真鍮 
 茶色に塗った古い木の板による箱の蓋を開くと、赤い飛行機が遠くの青空に飛ぶ情景を水彩で描いた絵が蓋の内側に現れる。箱の側でもこの飛行機をモチーフにした絵が数枚続くが、その下には透明アクリル板がはめ込まれ、内部には、ここで登場する複葉の赤いプロペラの飛行機をかたどった模型のようなオブジェが空に浮くように収められている。そしてこの作品では、飛行機と絵をもって、子供の心が掻き立てられるような冒険の世界(リンドバーグの冒険が暗に主題となっている)が表されるのである。

1962年生まれ。スクリュー等の廃船の部品などを素材に、表されたもの自体が物質の塊であるかのような巨大な絵画、インスタレーション作品のほか、双発の飛行機をモチーフにした作品を制作。
タカユキオバナ 
『るゆいつわ』私読 わそよみひ/22.5×22.5×3.3cm/紙、木、鏡、鈴
 箱の扉を開くと鏡が現れるが、この鏡の中央には小さな穴が開けられ、穴の中には1から82までの数字を記した鈴が見える。扉の裏面には、松原皎月の著作『霊の御綱』からの引用による、数霊が言霊と不離一体の関係にあることを示した配列図がデザインされており、まず来場者は、箱を裏返して穴の中の鈴を一つ取り出し、扉に記された配列図のことばと照らし合わせながら、別紙にその一文字を書くことを指示される。

1958年生まれ。鑑賞者自身の存在の根元を自問せざるを得なくなるような状況を発生させる「装置」としての作品を発表するほか、人の存在と意識の在り方への探索を核としてギャラリー・SPACE-Uを主宰。
田口 賢治 
世界のあらゆる場所に詩を/15×22×11cm/古書、ドアノブ、鍵
 古びた洋書の表面に、同じく時代の古さを感じさせるアンティークの金属製ドアと、鍵穴に差し込まれた鍵が取り付けられ、それらは素材である古書と一体になって、懐かしさや重厚さを含む新たなイメージをつくり出している。この作品には「世界のあらゆる場所に詩を」というタイトルが冠されているが、本とドアノブという一見相容れないものの組み合わせは、このタイトルと相まって、開けることのできないドアの下に隠されたことばが、時代や場所を超えて一つの物体となり、今ここに存在する姿をほうふつとさせるのである。

1972年生まれ。微弱な光に照らされる「部屋」を造形空間としてつくり出すことで、古くさびれたモノが持つ、懐かしさを含みながらも未知なる気配を観る者に体感させるインスタレーション作品を主に発表。
田通 営一 
still life/18×22×21cm/パールボード
 パールボードという、ガラスの粉を含んだ型取りのための石膏性の樹脂の塊から、厚みは異なるが同サイズの9冊の「本」が乱雑に重なる状況を掘り起こした彫刻的な作品である。全体は、青のトナーを混ぜ合わせた樹脂でコーティングされ薄いグリーン色となっており、一見すると9冊の「本」を重ねて接着したものにしか思われないものが、実は一体の塊であることに気付いた時に、「本」という物体そのもののかたちと在り方がクローズ・アップされるのである。

1959年生まれ。ギャラリーに敷設された電線を引き込んで作品自体にギャラリーの照明のスイッチを組み込むなど、実際の空間の中のある機能を作品化してそこに異空間をつくり出すようなインスタレーション作品を発表。
谷本 光隆 
永劫回帰/20.5×25.5×9.5cm/雑誌、水彩絵具、アクリル絵具、ニス、銅板
 銅板でできた重厚な箱に、半ばかたちが崩れてぼろぼろになった本が一冊収められている。本を開くと、もとの洋書のページを埋め尽くすように、水彩やアクリル絵具などによるドゥローイングや本の切り抜き、切手、さまざまな印刷物などが、きわめて濃厚に、そして複雑に絡み合いながらコラージュされて各ページがつくられており、時おり短いことばを印字したものが貼られている。ここで表されるイメージは、インドの神の姿や音楽師、惑星、インコ、戦争など多岐にわたるが、その世界像は、作者の意識の内側にある混沌とした無意識の領域や、宇宙の存在そのものを象徴しているようにも思われる。

1974生まれ。古書をベースとして、雑誌などの印刷物の切り抜きによるコラージュやドゥロ−イングなどをページの上から加えることで、自身の意識の内を表すようなブック・オブジェを制作。
洞野 志保 
耳羽蟲杜鑑(みみはねむしずかん)11.5×16.5×1.7cm/古本、布、銅板、紙
 青く染めた和紙を張った表紙に、「耳羽蟲杜鑑(みみはねむしずかん)」という書名と、この架空の虫の姿を腐蝕によって刻んだ銅板が埋め込まれ、開くと、架空の出版社「蜉蝣舎」の名やこの虫の生態の説明文が現れる。ここで使われている本は、作者が住むスロヴァキア語による古本だが、その本文の最初のページには数ミリの大きさの穴が線香で焼いて開けられ、ページをめくるごとにその穴は徐々に、そして加速度的に大きく広がってゆく。さらにページ半ばにいたっては、ローシャッハで描かれるイメージのように複雑なかたちとなり、ついにはこの架空の虫の姿(耳に細い手足が生えたもの)を刷った銅版画の断片が現れる。

1977年生まれ。人の「耳」と「手」の部分にことさら執着を持ちながら、繊細な線と淡い単色が印象付けられるリトグラフや銅版画などの作品を主に発表。
戸野倉 あゆみ 
Works on the Dictionary 第2集/20×27×1.5cm/紙、OHPシート
 赤いケースにA3二つ折による計10枚の作品が収められている。作品は、国語辞典のあるページを数語のみ残してあとは黒のボールペンで全面を塗りつぶしOHPシートに出力した右ページと、「かがみ」「星月夜」などといったタイトルおよび作品番号、右ページで塗り残された語を羅列して意味が通るようにした文、その文の解説が記された左ページによって構成されている。各ページで塗り残された詩のような10片のことばは、作者が意図的に辞書の中から選び取ったものだが、黒く消された周囲のことばは、作者の記憶のみに残る存在であり、この両者が視覚の中で響き合うことで、造形としてのイメージが新たに生み出されるのである。

1964年生まれ。あるイメージの反復や、そのバリエーションによるパターンの増殖によって、新たなイメージが空間に広がるような平面、オブジェ、インスタレーション作品を発表。
中川 るな 
how to make.../21×21×7cm/ビニールクロス、糸、ビーズ、その他
 ページ全体に大小の穴が開けられた透明ビニール・クロス108枚が、半透明のビニールに挟まれて綴じられている。途中からビニールのページは二枚一組となり、円形をつくりながら縫われる白の細い糸で銀色や透明のビーズをその隙間に封入し、この円形はページが進むごとに増殖し、円だけでできた不思議な光景を紡ぎ出してゆく。そして「本」全体は、宝石のようなかたちの透明の飾りが連なる「しおりひも」と共に会場の照明を受けて輝き、それが光を吸い込んだ一つの物体であるかのような印象を生み出している。

アクリル樹脂による「キューピー」や「リカちゃん」、小さな仏像などを無数に並べて展示空間を埋め尽くすインスタレーション作品など、モノやイメージの増殖が密度のきわめて濃い場所をつくるような作品を発表。