THE LIBRARY

展示作品紹介(1)

青野文昭/秋元珠江/阿部尊美/ありんこ天国/稲永寛/井上夏生+平原辰夫/扇千花/岡田真宏/岡博美/淤見一秀/金崎由紀子/かなもりゆうこ/川上和歌子/城戸みゆき/木村恭子/國松万琴

 


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青野 文昭
宮城−山形・県境で拾った雑誌の復元/32×27.5×5cm/拾った雑誌、木、工作用紙、アクリル絵具
 作者は、ある場所に破棄されていたモノを拾い、さまざまな素材と手法によってそこに「継ぎ足し」を施すことで、本来の姿を「復元」するという独特の作品を発表してきた。ここでは、タイトルに記された場所から自身で拾ってきた雑誌のページの断片を、方眼用紙を土台にしたパネルに貼って制作がなされているが、女性のヌードや4コママンガ、広告などの断片から「復元」されたこの雑誌は、かろうじてもとの姿を想像させ、モノと、モノの痕跡とのぎりぎりの境界線を垣間見せてくれる。

1968年生まれ。船や自動車、神社の鳥居、看板など、野に打ち捨てられていたさまざまなモノの欠片を拾い、欠けた部分を木や石膏などで補い彩色することで、その全体の姿を造形として蘇らせる絵画および彫刻作品を制作。
秋元 珠江 
発展的/16×20×12cm/辞書
 作者の父親が学生時代に使用していたという英和辞典のあるページ(Rome-rubel)に、1cmほどの幅でページの奥まで短冊状の切り込みを入れ、おみくじを木の枝に結ぶようにそれらを縒ることで、辞書を開いたページ上に樹林が林立するような情景が表された作品である。縒られた紙の表面には印刷された文字の断片が見えるが、ことばの意味を失ったこれらの部分と、辞書本来の部分との対比は、この本をかつて使っていた父親と、作者自身との、時間の断絶と共有という、心理的な境目を象徴しているように思われる。

1971年生まれ。水や泡などのはかないものを素材に、観客が自らの「影」を展示空間に感じ取るような映像、オブジェ、インスタレーション作品を発表。
阿部 尊美 
虫景/16×22×4cm/紙
 白い本の最初のページに、小さな黒い「虫」の図と、それがページを通り抜けて本の奥の方へと入り込んでゆく姿を想像させる穴が現れ、その穴は、地中の虫の巣を想像させる各ページへと続く。ページには、室内の光景などを撮ったカラー写真が加工して印刷され、一部には「虫」のモノローグを思わせる文章が記されている。そしてある部分から、空白のページに穴のみが開けられた紙の塊となって最終ページの黒点へとつながる。日常的な光景を通り抜けてゆく「虫」のイメージをもとにしたこの作品は、人が日々の中で体験するさまざまな瞬間の積み重ねこそが現実の姿そのものであることを、私たちに示唆するのだ。

1957年生まれ。人の知覚の本質についての疑問を呼び起こすことを核に、来場者の視覚や聴覚、思考に働きかけるような作品を、インスタレーション、写真など多様な表現で発表。
ありんこ天国 
本を読む種族・蚕人/16×21×10cm/粘土、紙
 白い布張りの表紙が、もつれた糸のような黒い線で覆われ、側面には、白い粘土でできた丸みのある小さな者たちの背中やおしりが、歯の配列のように上下に計30個整然と並んでいる。中を開くと、黒い紙でできた糸のようなものがこの30名の口から長く伸びて複雑に絡み合い、未知の文字のようなイメージをつくり出している。実はこの作品は、「蚕人」たちがからだから吐き出したことばからある物語が紡ぎ出されるという想定から制作が始まっているが、ことばが無く糸だけが絡むこの小さな場には、作者の想いそのものが物語に成り代わって浮遊しているように思われる。

1973年生まれ。携帯電話ケース、ブックカバーなどの役に立つものから、「鈴頭」などの役に立たぬものまで取り混ぜ、観た人を「くすっと」笑わせるような奇妙なキャラクターのオブジェや雑貨を制作・販売。
飯倉 恭子 
大きな木の秘密/18×19×16cm/木の板、木の枝、枯れ草、枯れ葉、鳥の羽
 朽ちた巣箱のように古びた木の板でできた箱の扉を開けると、内側には「あの大きな木が いつもおだやかで優しく、柔らかい光を放っているのは、小さな小さな鳥の巣を守っているから …」という、自筆のテキストを記した和紙が貼られている。箱を覗くと、藁を円環状に巻いてつくった鳥の巣を思わせる空間の奥に、白い小鳥の羽根を下敷きにして3つの小さな卵が収められ、その小さな「巣」全体は、外から身を隠すように7枚の枯れ葉で覆われ、作者が想う「母性」のかたちが表されている。

1964年生まれ。野外で拾い集めた木の枝や葉など、自然の中のものを素材にしたた立体、インスタレーション作品を発表するほか、それらを紙の上に表現して「本」のかたちにまとめた作品などを制作。
稲永 寛 
beautiful world/24×30.5×4cm/紙
 表紙を開くと、世界地図のページが現れるが、それらを間近に見ると、その中の地名の一部が見たことのない文字で記されていることに気付く。実はこれは、各国民族の現地語で地名が記されているからで、その内のいくつかは、ワープロの入力システムが存在しないために、作者自身がそのプログラムをコンピューターで作成するところから制作が始まっている。とりわけ近世以降の世界では、強国の支配によって使用される言語も時には不当に統一されてきたが、現地語での地名表記は、各民族の分布、さらには民族の存在そのものを示すといえるだろう。

1974年生まれ。美術と「経済」など、表現者と現実の社会、さらには「世界」との接点を探ることをもとにして、主にインスタレーションの形式で作品を発表。
井上 夏生+平原 辰夫 
RUST OF TIME/21×22.5×7cm/和紙にアクリル絵具、革、その他
 和紙のところどころをちぎったり穴を開けたりしたものを貼り合わせて不定形とし、朱色、黄色、燈色等のアクリル絵具で彩色した色とりどりのページ30枚が、板に和紙を張って彩色した表紙で綴じられている。これらのページは平原が描いたもので、ところどころでけば立つように荒い厚塗りのマチエールは、きわめて物質的な質感を感じさせる。造本は井上によるもので、背表紙の部分を上、中、下3段でくくった革紐や、それぞれのページをつなぐ太い編み紐がつくる幾何学的な模様は、絵具や色彩と相まって、「本」というよりもむしろ抽象絵画のようなイメージをつくり出している。

井上夏生:1973年生まれ。革装幀を主とする造本の技法によって、さまざまな書物の装幀を手がけるほか、幻想・怪奇文学をはじめとする文学書に独自のイメージを付け加えるような造本作品を発表。
平原辰夫:1952年生まれ。パネルや紙などのほか、厚手の和紙を何層にも貼り合わせてつくった支持体に、身体の動きをもとにアクリル絵具を塗り重ねてゆく絵画作品を、レリーフや立体の形式も取りながら制作。
扇 千花 
めくって/めくらないで  /30×21×3.5cm/文庫本ノート、木の板
 白い板の上に文庫本形式のノートが裏表紙を板に固定して2冊横に並び、右のノートの表紙部分には「めくって」、左のノートには「めくらないで」という黒く小さな文字が縦書きで印字されている。左側を開くと、すべてのページの中央部分に「めくって」という文字が一つずつ均しく印字され、右側をあえて開いてみると、全ページが白紙のままになっているが、指示通りにめくらず、中を想像するのみにとどめると、本の中身に関するさまざまな空想が生まれ、実際には何も記されていないこの場に、想像力を介した世界が広がるのである。 

1960年生まれ。存在感の希薄な素材を空間に設置することによるインスタレーション作品を発表するほか、場所の体験を起点に人の想像力に注目するワークショップ活動を各地で展開。
岡田 真宏 
カオスの縁/23×23×19cm/色鉛筆、韓紙、アクリル板      
 透明アクリル製の正四角錐の天頂部分につくられた仕切りの内部に、赤や青、緑、燈色などといった、1〜2cmほどの折れた色鉛筆の芯が多数封入されている。これは作者が普段制作する、腕のストロークによって雲肌麻紙にさまざまな色彩の色鉛筆の線を無数に重ねた絵画の制作過程で使われ、役目を終えた芯であり、四角錐の底には、その支持体となる前の生のままの韓紙を裂き、円形に貼り合わせたものが敷かれている。この作品では、絵具と支持体という絵画の要素を分離させた状況を見て取れるが、両者の間に横たわるものは、作者の意識の奥底にある制作のための「思念」であり、それが「ピラミッド」という絶対的なかたちに封入されることで、不可視だけれども確かにかたちを持つこの「思念」の存在感が、なおさら高められるのだ。

1947年生まれ。鉛筆あるいは色鉛筆によるストロークを無数に塗り重ねることでつくられる、「線」の集積でありながらも広大な空間の広がりを空想させるような平面作品を主に制作。
岡 博美 
four drops/11.5×24×6cm/布、フェルト、和紙、ガラス瓶
木の板でできた箱の蓋を取ると、ガラスの試薬瓶が4本収められ、来場者はそれらを手に取って見ることができる。中には、フェルトや和紙を素材にしてごく淡い色彩で彩られた、植物の実や花弁を思わせるようなかたちの小さなオブジェがそれぞれ収められている。瓶の表面には、ある短いことばを印字した小さな透明フィルムが貼られているが、これらは瓶の中のオブジェの色彩や形が発するイメージと相まって、作者があるときに感じ取った、空気をはじめとする視えない「何か」を私たちに空想させる。

1976年生まれ。自身が意識の中で感じ取ったものを、視えない「かたち」や音として現れない「ことば」に置き換え、そうした感覚を、主に繊維を素材とした立体、インスタレーション作品のかたちで発表。
淤見 一秀
TEXT No.67,68,69/20×10.5×30cm/真鍮線、ステンレス線、銅線、アクリル板、木製パネル、キャンバス、その他
 透明アクリルボックスの内部が3段に仕切られ、それぞれには、上から順に、細い真鍮線を編んで開いた「本」のかたちをかたどった作品、同様にステンレス線で「巻物」を表した作品、銅線で「折り本」を表した作品が、会場の照明の光を受け金属の輝きを発しながら設置されている。細い金属線を編んで「書物」のかたちとする作品を一貫して制作してきた作者の作品の中でも、ひときわ小さな今回の「書物」の三様態は、さまざまな形態に展開してゆくことも可能な「知の容器」としての「書物」の在り方の本質を、一つのモデルとして示唆しているように思われる。

1952年生まれ。文章を意味する「テキスト」と織物を意味する「テキスタイル」が同じ語源を持つことに着想を得て、さまざまな種類の金属線を開いた「本」の形状に編んだ立体作品および、それらをもとにしたインスタレーション作品を制作。
金崎 由紀子 
彼女の髪/20×25×12cm/雌ホルスタイン牛の尻尾、綿布、ボール紙、木工用ボンド、椿油
 表面に綿布を張った容れ物の上部や裏面から、ブロンドの髪を束ねたようなものが飛び出し、蓋を開けた内側には「髪」の先端が2本の釘でゆるく固定されている。美しく輝くこの「髪」は、実は、乳牛(ホルスタイン)の雌の尻尾から切り取られたものである。ここで素材となる「切り取られた髪」が発するイメージは、一人の「女性」の存在を暗に象徴し、それが牛のものであるという事実は、この「髪」自体が、人や動物といった種を超えた「生」の名残りとして存在することを示しているように思われる。

1980年生まれ。紙などをもとに、生ある存在が崩壊しつつある様子を表したようなオブジェ作品および、ブック・オブジェを制作。
かなもりゆうこ 
レースペーパーの幕 第1幕 光と神の話・第2幕 王の話・第3幕 種を蒔く少女の話/11×10×1.8cm(ライトボックスを含めると32×23×7cm)/グラシン紙、その他
 ライトボックス上に、白いブック・カバーに円形の穴を無数に開けた文字の無い本と、その他2種類のブック・カバーが置かれ、本を開くと3箇所にポップ・アップが立ち上がる。ブック・カバーとポップアップには、少女が鳥に餌を与える姿や、鳥、王冠、星のかたちが切り絵細工のようにきわめて細かく表され、物語に付随する幕ものの扉の役目を果たし、ブック・カバーは本の衣服の役目を担う。そしてこれらは、ライトボックス上の黄色いトレーシング・ペーパーを透過した光を浴びてやわらかな黄色味を帯び、それは切り絵が表す物語と相まって、少女たちが幼い頃に夢見たであろう空想の世界を、暗に垣間見せてくれる。

1968年生まれ。ある一人の少女の成長を追いつつ、「子供の世界」をテーマにした映像作品およびインスタレーション作品を発表。
川上 和歌子 
夜のしごと/21×21×10cm/布、レース、そばがら
 ページ部分が無い朱色の布張りによる「本」の内側に、レース地が両端に付いた枕カバーに覆われた白い極小の枕が、計100個ほどぎっしりと何段にも積み上げられ、「本」の端の部分では、一部がくずれて作品の周囲にこぼれ落ち広がっている。これは作者の手によって、本物のそばがらを中に詰めて精巧につくられたものだが、それらが積まれて一つの塊となった様は、枕の数だけあるだろう多数の人々の「眠り」や、さらにはその日常さえも時として空想させる。

1969年生まれ。頭のない人型や、自己の姿を模した人形などが展示空間で無数に増殖し、そこで使われる赤や黄色の鮮明な色彩が強く印象付けられるインスタレーション作品を主に発表。
城戸 みゆき 
時間からこぼれる光が私たちを照らす/17×14.5×18cm/紙、布、レンズ、その他
 板に茶色の布を張った立体の内側に、数十枚の和紙がぎっしりと挟み込まれ、前後にはレンズをはめ込んだ小さな穴がそれぞれ開けられて、内部を覗き見ることができる。重なる和紙の束の中央に穴を開けてつくったその内部には、紙でできた小さな家々が立ち並び、同じく紙による一人の老婆が立っているが、箱を光にさらして前後の穴を覗き見ると、作者の意識の中の空想を表すような小さな世界の光景が、覗き穴のレンズにデフォルメされて目の前に浮かび上がる。

1972年生まれ。独特の曲線によるイラストのほか、「教会」「銭湯」などさまざまな街の情景を小さな組み立て式の立体イラストに仕立て、それらを多数並べて架空の街をつくる作品を発表。
國松 万琴 
黒書 (Black Book 氈j/22×19×19cm/陶土、顔料
 比較的低い温度で焼く「黒陶」によってつくられた、開いた本のかたちを模したオブジェ作品である。本のページ面にあたる部分では、墨流しをしたような彩色が顔料によってなされ、側面では異国の建造物を思わせる窓や入口、階段が付けられ、内部を覗くと、暗い中に柱のようなかたちや床に降りる階段が黒い造形として表されている。そしてこの「黒」の色彩には、作者の空想世界の中に生まれた、神聖さをまとうさまざまな寓話が秘められている。

積み上げた陶土にガラスを乗せて焼成し、そこに金彩を施すという手法により、「本」が開いた状態もしくは閉じた状態をかたどりつつ、記憶の中にある風景を表すようなオブジェ作品を主に制作。