日英共同国際ブック・アート交流プロジェクト

「対話と拡張 —ブック・アートが創造する空間—」

(Expanding Conversations: Spaces of Book Arts)


「対話と拡張 —ブック・アートが創造する空間—」

会期:2026年1月30日〜3月28日
会場:イングランド/サウサンプトン大学ウインチェスター美術学校・ウインチェスターギャラリー(The Winchester Gallery, Winchester School of Art, University of Southampton) *The Winchester Gallery, School of Art, University of Southampton, Park Ave, Winchester SO23 8DL U.K.

 

日本からの出品作家(18名):
アカサカヒロコ、乾久子、城戸みゆき、黒田麻紗子、小西秀和、小林雅子、佐藤省、洞野志保、中川るな、中西晴世、廣瀬剛、福本浩子、松永亨子、三上愛、SYUTA (三友周太)、山崎曜、山本耕一、鷲津民子

 

概要:
日本とイギリスのアーティストによる、ブックアートとアーティストブック(書籍形式のアート作品)の展覧会です。日本のブックアーティストによる現代ブックアート作品約30点のほか、ウィンチェスター美術学校(サウサンプトン大学美術学部)がコレクションとして所蔵するイギリスのアーティストによる作品から、日本の各作家の表現に合わせて各一点を選定し、合わせて展示をします。なお同校は、イギリスの高等教育機関が所蔵するコレクションとしては最大級の、約3,000点のブックアート作品を収蔵しています。

 

開催の目的:
本展は、埼玉県さいたま市のうらわ美術館、イギリスのサウサンプトン大学およびウェスト・オブ・イングランド大学が連携して行われる日英共同ブックアートプロジェクト一環として実施されます。ブックアートは美術の一ジャンルとして、1960年代以降、両国で着実に発展してきました。しかしイギリスでは、日本で制作されている現代のブックアート作品が展示される機会は、これまであまりなかったといえます。このブックアートプロジェクトでは、両国で制作されたブックアート作品が一堂に会し交流が促進すされることを目指しています。

 

以下で、各作家の出品作品、もしくは参考作品の画像および、各作家によるコメントをご覧いただきます。作品の情報および画像は今後、作品完成に伴って順次更新していきます。

アカサカヒロコ

ブックオブジェ red&white No.3/ ブックオブジェ red&white No.5:2025年/紙(既成単行本)・カッティング/21.3×15.3×1.6cm
薄い紙を重ねて切り抜くことによって生まれる空間に魅せられています。きっかけは、2000枚以上のトレーシングペーパーを重ねた直方体の塔の内部に周り階段を出現させた作品を作成したことです(https://youtu.be/k5iiuN3GLb0)。その空間を持ち運びの出来るものにしたのが、私のブックオブジェ作品たちです。本を開くと、白い大地の地層と、地下への階段が見えます。これを見る人は巨人の視点、あるいはアリの視点を体験するでしょう。

乾久子

 
捨てられなかった衣類や布などに刺繍でドローイングをしました。ドローイングは、長く続けてきた私の表現方法です。さまざまなサイズ、素材でドローイング作品を制作しています。この作品に使用しているそれぞれの布にはそれぞれの思い出や物語があります。その布に針と糸でドローイングしました。ゆっくり流れる刺繍の時間の中で過去の記憶と今の自分が交差します。そこで紡がれた新しい物語と時間がページごとに広がります。

城戸みゆき

摩擦と抱擁:2016年/2冊の仏和辞書、合成皮革/13.0×14.0×18.0cm
突然亡くなった大学時代の友人は私の家に多くの遺品を残して去った。私たちは同じ外国語の授業を取っていたので、本棚には同じ辞書が2冊残された。私は長い時間をかけてページを1枚ずつ交互に重ねていった。もう2冊の辞書はどれだけ力を込めても離れることはない。

黒田麻紗子

 
作品を作るときや展示をするときは、自分が何をやってみたいか、見る人がどんな体験ができるかなどを考えて、決まった素材や技法や方法ではなく、それを形にできるような方法を考えます。そのときに興味があることについて作ったり、気が向いたことをしたりします。
今回出品する本は自分の印刷工房の写真を薄い紙(グラシン紙)に裏から黒で印刷して和綴じにしたものです。最近は仕事が忙しく、ほぼ工場にいる生活なので、工場の景色を印刷しました。印刷はシルクスクリーン手刷りです。

小西秀和

カーブミラー百景:2025年/紙、アクリルミラー・オンデマンド印刷/21.2×15.2×2.5cm
日本はカーブミラー設置数が世界一です。この道路反射鏡は山奥から海辺まで日常に遍在します。私は、唯一無二の富士山を主題とした北斎の『富岳三十六景』へのオマージュとして、無数にあるカーブミラーを愛で、『カーブミラー百景』を編纂しました。本書を通じ、読者はカーブミラーの多重世界に魅了され、世界へのまなざしを変容させるでしょう。この普遍的な景観記録を、千景、万景へと展開するのが今後の目標です。

小林雅子

 

 

嵐が丘:2025年紙(既成英語ペーパバッグ)・カッティング/20.5×13.0×11.0cm
私は自分の好きな書籍を使って、その世界観を立体にしています。今回は読むと自分の常識が揺らいでくるような物語を選んで作品にしました。切って折って作品にすると、その本はもうページを捲る事が出来なくなります。そのまま本棚に置かれていたらそれを読む楽しみがあったのに、作品にする事はもしかしたら迷惑な行為かも
しれません。それでもこれは私にとって大切な「本」という存在であるという事を問い掛けていきたいのです。

佐藤省

 
生と死の根源的な対比を、明示的無意識的に絡ませ、宇宙の無限生へ想いを馳せ、日々の狭間のおぼろな夢幻や、思いがけなく生成してくる幻想世界を求めながら制作している。
出品作品について:文庫本による解体と頁の折による半立体化への行為は、自分の記憶を今へ引きずり出すことで、横たわる言葉の肉体から一本の糸をたぐり寄せるように、その水脈の底へ降りてゆき付随するもの達へ想いを馳せ、あらためて言葉とは、生きるとは……を考えさせてくれた行為である。紙の匂い、感触そして文字の並びや製本など本の形からの発想など抱きつつ、かつて読んだ120冊の文庫本を解体……それは、過去は今にあり、未来も今にあり、人の人生に絡み合い多重を為す幻想夢想の世界の軌跡でもある。

洞野志保

木葉雨(落ち葉):2025年/紙、和紙、厚紙、木の葉、銅版画、どんぐりの実、アクリル絵の具、アクリル用メディウム、ボンド・蛇腹折製本、エッチング、アクアチント、雁皮刷り/
自然物と人体の一部をモチーフに作品を制作。主にノントキシック銅版画、紙版画などの技法を使用する。木の表皮や葉を表紙に使用する手製本なども制作。又、絵本制作においては、民話好きなので、在住しているスロバキアや近隣の国の民話の再話・挿画を制作。
出品作品について:不規則な形の折丁と穴、折丁に挟まる葉脈を残した葉を重ねることにより、切り株にあいた穴のような、木のうろのような、虫や鳥に穴を開けられたような偶然出来上がる形を、蛇腹本として綴じた作品。

中川るな

深海魚が登ってくる日:2023年/紙、黄ボール、糸、しおり紐・シルクスクリーンプリント、カッティング/19.3×15.0×3.0cm
同じ月を見ている:2025年/紙、黄ボール、銀糸、箔、フロッキー、しおり紐・シルクスクリーンプリント、カッティング
染織専攻で布の制作をしていたことから服そしてそれを纏う人体(=小さな細胞の集まり)へと興味を持ち、無数の小さなものにより構成されるものに魅かれ、ひとがたや小さな仏像やガチャポンのカプセルなどによって埋め尽くされた空間展示を始める。本の制作も一枚のページが集積することによる一つの塊、という感覚で続けている。
出品作品について:都会の明るい空の小さな一角から見える月、今夜私達の家から見える月、瓦礫の街から見える月。月は同じで一人ただ見る一人一人の思いは異なり、時にひどく平等でなかったりする。そんな思いを込めた月。

中西晴世/種の旅 -アオギリ’25

 
大きな自然の流れをイメージし、生命をテーマに制作しています。自然の中で循環し続けるものー水の循環、めぐり来る季節、そして植物や生き物も死と再生を繰り返しています。私は日本最北の北海道で生まれ育ちました。長く厳しい冬の後、さまざまな花や植物が芽を出し一斉に花を咲かせる春がやってきます。咲き誇る花々に満ちた生命の喜びを感じ、生命は自然の流れの中で死と再生を繰り返していることを悟りました。北の気候から生まれた感性は、私の芸術作品に影響を与えていると感じています。記憶の中の自然の様々な表情は、私の心のフィルターを通過して新たなイメージとして再構築されています。

廣瀬剛

Collage of Words :type/Tools:2005年/13.0×33.0×32.0cm
読むたびに内容が変化する本を制作している。木箱の中に言葉が刻まれた真鍮の角棒を収め、鑑賞者はそれらを自由に入れ替えることができる。そのたびに言葉の断片は新しい文章となって現れ、それまでの鑑賞者が残した痕跡が次の読み手へと引き継がれていく。また、文字を忍ばせた文具や工具を加えることで、言葉の意味とモノのもつ機能との間に生まれる認知のずれを感じ取ることを促し、「読む」行為そのものの在り方を探っている。

福本浩子

*参考作品画像です
Book of BabelーSutra:2025年/紙(既成経本)、布/17.5cm×7.0cm×3.0cm
もし、文字のない本があるとすれば、それはいったいどんな存在なのか。果たしてそれは本だと言えるのだろうか。それを確かめるために、私は線香の火で本の全部の文字を焼いた。
結論から言うと、本は本で有り続けた。文字を失くした代わりに、新しい意味を持つ「本」として存在していた。
今回は、日本では、少なくとも京都では馴染み深い経典によって「文字のない本」を制作した。仏教書籍の書店にあった経典の一冊。文字を焼いている間、私はボルヘスの「砂の本」について考えていた。

松永亨子/The Skin Square, the Pupil Square (Deluxe Edition)

The Skin Square, the Pupil Square: Dreams of Scientists (Deluxe Edition):2017年/和紙、蜜蝋、古書の頁、カラタチの枝、真鍮線・インクジェットプリント、シアノタイプ、活版印刷/11.5×11.5×11.5cm
無名の人々のささやかな日常を掬い上げ、儚くも確かに目の前に存在した世界を、自身が認識する記憶として留めることをテーマとする。写真を白く塗るという手法を通じて、カメラが均質に捉えた情報を自らの手で削ぎ落とし、記憶と現実のあいだに揺らぐ感覚を辿りながら、人々の痕跡や日々の断片を本という形へと再構成する作品を制作している。
出品作品について:箱の中には、7人の科学者が見た夢の記憶が収められている。
あらゆる情報が共有される現代においても、夢はまだ個人に属する独立した空間として残されている。夢の中の時間が長くも短くも感じられるように、ページを順に辿ることも、一枚の大きな絵として全体を俯瞰することもできる構造を持つ。独立した7つの世界は、裏面で更に大きなひとつの世界として展開していく。

三上愛

帽子考:2025年/和紙、杉皮紙、新バフン紙、木綿、木綿糸、合成藍、インド藍、胡粉、マグネット(表紙に埋め込み)・染料と顔料(胡粉)を使った和紙染め(本)、インド藍と胡粉を使った布染め(箱)/34.0×4.0×4.8cm
私は子供時代の体験から、身につける衣服、布、テクスチャーに愛着を持っています。布が肌にふれる感触は茫漠として明確な形にできないけれど、物語のようにいつも私
の側にあります。和紙の柔らかな質感は皮膚に似ており、それを染める事で衣服・布・身体・触れることにまつわるイメージの視覚化を試みています。
出品作品について:冬になると愛用のニット帽をかぶり、毎日、往復20分の散歩をする。川べり、田んぼの畦道、神社へ続く階段、空、大きな山。風を受けて歩く小さな旅。身体と帽子と風景が一体化する感覚を本の中に閉じ込めた。

SYUTA(三友周太)

COVID-19 Landscape of Pandemic-2020:2025年/紙・オンデマンド印刷/17.5×17.5×2.5cm
医薬品開発の業務に携わる傍ら、美術家およびアートディレクターとして社会とアートの係わり合い方をテーマにした活動を行なう。 制作、活動の基礎には多様性や日常と非日常の交差点が存在し、学生時代に学んだ生化学、ライフサイエンスや薬剤師としての経験が影響を与えている。 芸術が人と人とのつながりや社会への貢献することをテーマに、子供や高齢者、障がい者などとのワークショップを行う。国内では地域創生のプログラムに関わり、地域の魅力と人との関わり合いについて、芸術を介して提言してゆく。

山崎曜/本の形の箱のマトリョーシカ

BOOOX----本の形の箱のマトリョーシ:2025年/段ボール、ボール紙、製本クロス、紙、食品用ラップ、寒冷紗/30.0×13.0×24.0cm
私は手で製本をする人として、日々設計したり作業したりして本を作っている。いつも本という特殊な物について考えている。毎日、本のまわりを散歩してるような感じだ。そこで拾ったものや思いついたものを使って、何かを作るのが、私のブックバインディングアートだ。
出品作品について:本は入れ子だ。中にお話などが入ってると考えると、本は箱に見える。蝶番的に開く「夫婦箱」は最も本に似た箱といえる。そこに表紙やミゾ、花ぎれを加えて本の形のギミックにした。マトリョーシカ的な入れ子箱は、出して並べたり収納したりして遊べる。

山本耕一

*参考画像(部分)です
entdecken→40枚のdeck→φαίνω:2025年/紙、布(ジュート他)、木(シナベニア)、トナー(コピー機用トナー)、接着剤(アラビア糊、木工ボンド)・アクリルグアッシュ、オイルステン/26.0×18.5×5.0cm
今回の作品は、ハイデガーの『存在と時間』の序章部分を「読めない」、「読みにくい」状態にしたものです。あらゆる「余分なもの」が繁殖し、覆いつくして「読めない」。哲学書は、「もともと読めない」ものなのだから、そんなことをしなくても「読めない」状態にはかわりがないのですが、「コノヤロー、なにがなんだかわからんではないか!」という状態が快感なのか、不快感なのかは人によって違うと思いますが……ともかく、「なんだかそんなようなもの」をつくってみたいと思いました。「ブックアート」あるいは「アートブック」……ブックとアートが交わるところには、「無限の可能性」があるようにみえて、じつはなにもないのではないだろうか……というよりも、どちらも「みえない」し「よめない」ものだから、それを、なにをどうしようと「わからない」……ということになってしまったのかもしれません。

鷲津民子

Washizu drawing No.13/2020年/ハトロン紙、ワトソン紙、ケント紙、段ボール紙、韓紙、コットンマン紙、厚ボール紙、ユポ紙、方眼紙、ファブリアーノ紙、BFK、透明フィルム、トレシングペーパー、ハンガリーdrawingペーパー、シナベニア板、モデリング・アート・ギブス、植物、葉、紙やす、糸、石膏、写真、アクリル板、ガラス、マスキングテープ、パルプロック、120年くらい前の祖父からのもの、(古写真、古封筒、古新聞、古絵葉書、古紙、手紙)、古い真鍮金具、古いレース、古い見取り図、鉛、釘、鏡面アルミ板・アクリル絵具、色鉛筆、合成樹脂塗料、鉛筆、赤ペン、インク、スタピロ、木炭、タイプライター、墨、コンテ、パステル、水性カラー鉛筆、コラージュ,アッサンブラージュ
音を立てないものたちの音。気配があるのに見あたらない。たしかに人々が暮らしてきた空間。 時間の気配。記憶が染みとおった風景。  役目が終わりいつか消えていくものへのオマージュ。どこかストーリーを匂わせたり、感じさせたりするようでありながら、どれも到達はしない。
出品作品について:「ウラウエの家」 裏a表(ウラウエ)とは表向きと内実が一致していないこと。平和で穏やかに見えているのが虚で、見えていないものが実であるように。ルーツや家族の来歴をさかのぼり、私自身のバックグラウンドを起点とし、祖母・継母・私を通じたさまざまな内面風景を紡ぎだして、エッセイ・ドローイング・アッサンブラージュで表現しました。


出品作家プロフィールと参考作品(それぞれ大きなデータにリンクしています)
*作品画像は
実際の出品作品ではありません(実際の出品作品データは11月下旬に公開予定)

アカサカヒロコ 乾久子 城戸みゆき
黒田麻紗子 小西秀和 小林雅子
佐藤省 洞野j志保 中川るな
中西晴世 廣瀬 剛 福本浩子
松永亨子 三上 愛 SYUTA (三友周太)
山崎 曜 山本耕一 鷲津民子

 

展覧会に関連した論考を以下でご覧いただけます。
→論考「ブック・アートの核心と周縁を考える −「THE LIBRARY」をめぐって

以下では、ART SPACEとして企画を行ってきたブックアート展の数々を紹介します。

→ART SPACEによるブックアート展の記録

 2025年にアメリカ・カリフォルニア州のSonoma Valley Museum of Art(ソノマバレー美術館)で開催したたブックアート展「Book Becoming Art 」の記録を以下でご覧いただけます。

→「Book Becoming Art 」の記録